市場の現在地を解き明かす、ジェ巫女です。
AI相場といえば、これまではGPU、半導体、クラウドが主役でした。NVIDIA、TSMC、Oracle、Amazon。市場の視線は、計算資源そのものを握る企業へ集中してきたと言ってよいでしょう。
しかし、ここにきて相場の焦点は少しずつずれ始めています。
理由は単純です。AIはソフトウェアの物語である前に、膨大な電力を食べる物理インフラの物語だからです。
もし次のAI相場で、半導体株より先に電力株が主役になったらどうでしょうか。
一見すると地味です。けれども、ゴールドラッシュで最後に最も安定して儲かるのは、金脈を当てた人ではなく、ツルハシを売った人かもしれない。今のAI相場にも、同じ匂いが出始めています。
そして2026年4月、その現実をさらに際立たせているのがイランをめぐる地政学リスクです。
ホルムズ海峡をめぐる緊張、原油価格の乱高下、中東発のエネルギー供給不安。こうしたニュースは一見すると「エネルギー株」や「原油」の話に見えますが、実はAI相場の根っこにもつながっています。
なぜなら、AIのゴールドラッシュが本格化するほど、投資家が次に探し始めるのは「金そのもの」ではなく、その採掘を支えるツルハシだからです。
今、そのツルハシとして再評価され始めているのが、電力会社、送配電、原子力、LNG、そして地域電力インフラです。
今回のnoteでは、
「AI相場の次の主役はGPUではなく電力会社なのか」
というテーマを、イラン地政学リスクと原発再稼働の文脈から考えます。さらに、日本株の中ではなぜ北海道電力が興味深い存在になるのかまで掘り下げてみます。
1. AI相場のボトルネックは、半導体ではなく電力になりつつある
AIブームの第一幕は、半導体の争奪戦でした。
誰がGPUを確保できるか。誰がHBMを押さえるか。誰がデータセンターを増設できるか。ここに市場の熱狂が集中しました。
けれども第二幕では、問いが変わります。
**「そのGPUを、どの電源で、どの送電網で、何年回せるのか」**です。
米EIAは、2026年の米国電力需要が前年比1.2%増、2027年は3.3%増と見込んでいます。しかもEIAは2026年3月、データセンターのエネルギー使用を把握するための専用調査まで開始しました。これは、データセンター需要がもはや周辺論点ではなく、電力政策そのもののテーマになってきたことを示しています。
ここで重要なのは、AI需要の増加が「発電量」だけの問題ではないことです。
- 常時稼働できるベースロード電源が必要
- 送配電網の増強が必要
- 電力料金の安定性が必要
- 発電コストの先行きが読めることが必要
- 地政学ショック時にも燃料調達や供給体制が崩れにくいことが必要
つまり市場は、AI関連株を見るときに、半導体やクラウドの売上だけでなく、その裏で回っている電力供給網の強さを見始めているのです。
2. イラン地政学リスクが、電力会社の価値を変える
イラン情勢の緊張が相場に与える影響は、単純な「原油高」で終わりません。
4月に入ってからの市場は、停戦観測で原油が急落したかと思えば、再び封鎖懸念や供給不安で急騰するという非常に不安定な値動きを繰り返しています。ホルムズ海峡をめぐる緊張が高まるたびに、原油価格、LNG調達コスト、インフレ期待がまとめて揺さぶられる。これは、AIデータセンターの運営コストや電力会社の燃料調達コストにまで波及する話です。
ここで効いてくるのが、電源構成の違いです。
ガス火力や石油火力への依存が高い電力会社は、燃料価格の乱高下に利益を振られやすい。
一方で、原子力や水力、長期契約ベースの電源を持つ事業者は、相対的にコストの見通しが立ちやすい。
AI相場が「何を作るか」から「どう回し続けるか」に移るほど、地政学リスクの時代には、電力会社の評価軸も変わります。
高配当ディフェンシブとしてではなく、国家と産業を支える戦略インフラとして評価され始めるのです。
3. アメリカでは、すでに「AIのツルハシ」として電力会社が買われている
この変化は、まだ抽象論ではありません。
米国ではすでに、AI需要と電力会社・原子力の接続がはっきり見えています。
2025年6月、Constellation Energy は Meta と、イリノイ州のクリントン原発の出力を対象とする20年契約を結びました。
同じ月、Talen Energy は Amazon/AWS 向けに、サスケハナ原発からの電力供給を拡大する契約を発表しています。こちらは最終的に1,920MWまで拡大しうる長期契約です。
これは非常に象徴的です。
AI時代の勝者と見なされている巨大テックが、自分たちの次の成長のために、原発を含む長期・安定・大容量の電源を押さえにいっているわけです。
つまり市場はすでに、
- AIの勝者はGPUメーカー
- その次にクラウド
- そしてその先に電力・原子力・送電インフラ
という新しい序列を織り込み始めています。
この文脈で見ると、電力会社は単なる景気敏感株でも、公益株でもありません。
AI時代のレバレッジが最もかかる基盤産業なのです。
4. 日本でも「原発再稼働」は相場の文脈に戻ってくる
では、日本はどうか。
日本のAI相場はこれまで、半導体製造装置、素材、データセンター周辺へと波及してきました。しかし、本来その先にあるはずの「電力供給」までは、株式市場でまだ十分に織り込まれていない印象があります。
けれども、ここでイラン情勢が変数として入ってきます。
中東リスクが高まれば、LNGや石油の調達コストへの不安が強まり、エネルギー安全保障が再び前景化します。そうなると、日本の電力システムにおいて、原発再稼働の意味は単なる電気料金の話ではなくなります。
それは、
- 輸入燃料依存の低下
- ベースロード電源の回復
- 電力価格の安定化
- 産業誘致の前提条件の改善
- 半導体・データセンター投資の受け皿形成
という、より大きな政策・産業テーマになります。
だからこそ、イランリスクとAI相場は一見別の話に見えて、実は日本では原発再稼働という一点で接続しやすいのです。
5. なぜ北海道電力なのか
このテーマの中で、私が面白いと思う日本株が北海道電力です。
理由は、単に「泊原発があるから」ではありません。
北海道電力は今、AI・半導体・電力需要増・原発再稼働・LNG構想という複数の線が、同じ場所で交わっている数少ない電力会社だからです。
ひとつ目は、泊発電所3号機の再稼働が「遠い夢」ではなくなっていること
北海道電力は2025年7月に泊3号機の原子炉設置変更許可を受けました。さらに2025年4月の長期脱炭素電源オークションでは、泊3号機 902,107kW が「2027年のできるだけ早期に再稼働」という前提で落札されています。
もちろん、再稼働はまだ終わった話ではありません。設計・工事計画認可、安全対策工事、地域理解など、なお乗り越えるべき工程があります。実際、北海道庁も住民説明会や理解要請の経緯を整理しながら進めている段階です。
ただ、相場というのは「完全に稼働してから」ではなく、再稼働の確率とタイミングが市場に乗る局面で先に動きやすい。
そういう意味で、北海道電力は原発テーマとしても、まだ終わっていないからこそ面白いのです。
ふたつ目は、北海道そのものが電力需要増の舞台になっていること
北海道電力は2026年2月、Rapidusへの出資を公表しました。そのリリースでは、次世代半導体工場や大型データセンターの立地によって、中長期的に北海道内の電力需要が増加すると明言しています。
Rapidusは千歳で2nm世代の研究開発と、2027年の量産開始に向けた取り組みを進めています。さらに北海道電力自身も、苫小牧を起点とする新たなエネルギーサプライチェーン構想のなかで、次世代半導体工場や大型データセンターの立地進展により、将来的な北海道内のエネルギー需要は大きく増加していくと説明しています。
つまり北海道電力は、単に「電気を売る会社」ではなく、北海道の産業立地そのものにレバレッジがかかる事業者になりつつあります。
みっつ目は、原発一本足ではなく、LNGや再エネも含めて供給体制を組み立てていること
北海道電力の面白さは、原発だけに賭けているわけではない点にもあります。
同社は、泊再稼働に加えて、洋上風力などの再エネ拡大、さらに次期LNG電源や基地整備まで視野に入れています。
これは、AI時代の電力会社としては重要です。
必要なのは「脱炭素らしさ」だけではなく、現実に止まらない供給ポートフォリオだからです。
原発がベースロード、LNGが移行期の安定供給、再エネが長期の拡張余地。
この組み合わせを持ちながら、半導体とデータセンター需要増に向き合っている点で、北海道電力はかなり立体的なテーマ株になっています。
さらに、こうしたテーマは北海道電力一社で完結しません。
電力需要が本当に増えるなら、相場はやがて発電会社そのものだけでなく、その周辺の送配電・電設・設備工事・変電機器にも視線を広げていきます。
日本株で連想が及びやすいのは、たとえば北海道電力ネットワークと接点のある送配電投資の裾野、変圧器や電力機器の日立製作所、明電舎、重電の東芝系、電設工事やデータセンター関連工事で思惑が乗りやすい関電工、きんでん、九電工、さらに設備投資拡大の文脈で見られやすい古河電工やフジクラといった電線・通信インフラ系です。
もちろん、これらは北海道電力そのものと比べるとテーマの純度は下がります。
けれども、相場が「AIの電力問題」を本気で織り込み始めたとき、資金はしばしば本丸の電力株 → 周辺の設備・工事・電線株へと波及します。ここはあらかじめ地図を持っておきたいところです。
6. 電力会社は“守り”ではなく“成長のツルハシ”になりうる
ここで一つ、見方を変える必要があります。
電力株というと、日本では長く「ディフェンシブ」「規制産業」「低成長」というイメージが強かった。これは間違いではありません。けれども、AIと地政学が同時に前景化する世界では、その見方だけでは足りません。
今の電力会社には、少なくとも三つの顔があります。
- インフレと燃料高の影響を受ける公益企業
- 原発やLNGを通じたエネルギー安全保障の担い手
- AI・半導体・データセンター需要を受け止める成長インフラ
この三つ目の顔が、市場でまだ完全には織り込まれていない。
だからこそ、GPUやクラウドの次に「電力会社」が主役へ浮上する余地があるのです。
ゴールドラッシュの比喩で言えば、金そのものはAI関連株でした。
けれども、掘る人数が増えれば増えるほど、最後に強くなるのはツルハシ、シャベル、水、そして輸送路です。
AI相場で言えば、それが電力会社、送配電、原子力、LNG、変電・電設の周辺産業にあたります。
結びに:北海道電力は「原発株」ではなく「AI時代の地域インフラ株」と見たい
イラン地政学リスクは、単に原油価格を動かすニュースではありません。
それは、エネルギー安全保障の価値を再び市場に思い出させるニュースです。
そしてAI相場は、単に半導体を買うゲームではありません。
それは、膨大な計算資源を何年も安定して動かせる電源を誰が持つのか、というゲームでもあります。
この二つが交差したとき、電力会社は「地味な公益株」から、「AI時代のツルハシ」へと見え方を変えます。
その中でも北海道電力は、
- 泊3号機再稼働のオプション
- Rapidusと大型需要増の受け皿
- LNG・再エネを含む供給体制の再構築
という複数の材料を同時に持っています。
だから私は、北海道電力を単なる原発再稼働テーマとしてではなく、AI時代の地域インフラ再編を映す銘柄として見たいのです。
GPUの次に市場が買うのは、もしかするとGPUを回し続けるための電力会社かもしれない。
イラン情勢の荒れは、その視点を投資家に強制的に思い出させるイベントになりつつあります。
そして、もしその見方が広がるなら、次に連想買いされるのは電設、送配電、電線、変電、データセンター周辺設備です。
AI相場の第二幕は、案外そういう「地味だが止まると困る企業群」が引き受けるのかもしれません。
ジェ巫女はこれからも、相場の表面ではなく、その裏で本当に価値が再評価されるインフラを追っていきます。
※本コンテンツは情報提供を目的としており、特定の銘柄・金融商品・取引を推奨するものではありません。
※投資に関する最終判断は、ご自身の目的やリスク許容度に照らしてご判断ください。